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ITG乱流における電子イオン間のエネルギー交換

 核融合科学研究所の連携大学院生で複合大域シミュレーションユニットのメンバーである東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻博士課程2年生の加藤鉄志らが「ITG乱流における電子イオン間のエネルギー交換」についての研究成果をまとめ、その論文が「Physics of Plasmas」の2024年6月号に掲載されました。さらに、本論文はEditor’s Pickに選ばれました。

【論文概要】

 磁場閉じ込めプラズマにおける微視的乱流は、粒子束や熱流束だけでなく、異種粒子間のエネルギー交換にも寄与している。これまでの研究では、乱流によるエネルギー交換の影響は大きくないと考えられてきたが、将来の核融合炉のような衝突の少ないプラズマでは、衝突によるエネルギー交換よりも大きな影響を与えると予想される。本研究では、トカマク構成におけるイオン温度勾配(ITG)乱流によるエネルギー交換を評価するためにジャイロ運動論シミュレーションを行った。 ITG乱流によるエネルギー交換は、主に磁場勾配-曲率ドリフト運動するイオンの冷却と、磁力線に沿って動く電子の加熱から構成される。ITG乱流は、イオンと電子のどちらが高温であるかに関係なく、イオンから電子へエネルギーを伝達することがわかり、これはクーロン衝突によるエネルギー伝達とは著しく対照的である。このことは、核融合反応に必要な高いイオン温度を維持する観点からは、ITG乱流はアルファ加熱された電子からイオンへのエネルギー移動を妨げるとともに、核融合炉外部へのイオン熱輸送を促進するため、抑制されるべきであることを示唆している。さらに、線形及び非線形シミュレーション解析により、粒子及び熱流束に加えて乱流エネルギー交換を予測する準線形モデリングの実行可能性を確認した。

図:Te/Ti=1.0の場合の電子(a)とイオン(b)のエントロピーバランスの各項の波数スペクトル。これらは非線形シミュレーションによって得られた乱流の定常状態において評価されたものである。電子(c)とイオン(d)について、線形シミュレーションと非線形シミュレーションで得られた静電ポテンシャルの振幅の2乗に対する乱流粒子・熱輸送フラックスと乱流エネルギー交換の比を示す。非線形エントロピー移送項が負となる波数領域を水色で示している。(c)と(d)の破線は kx=0 の線形不安定モードで得られた比を表す。

 本研究は、核融合科学研究所のプラズマシミュレータ雷神を使用して行われました。

【論文情報】

T. Kato, H. Sugama, T.-H. Watanabe, and M. Nunami, “Energy exchange between electrons and ions in ion temperature gradient turbulence”, Phys. Plasmas 31, 062510(2024).

DOI: 10.1063/5.0204022