位相空間乱流
Phase Space Turbulence
  • 研究目的

     核融合プラズマ異常輸送研究の未解決問題に回答を与えるため、位相空間プラズマ揺動の実験研究を行う。理論・シミュレーション研究から指針を得て、速度分布関数を空間多点同時計測し、位相空間構造の観測を目指す。計測器の原理開発や最適化、位相空間摂動源としての電磁波加熱の利用、基礎装置でのプローブ計測も並行して行う。プラズマの粒子性が顕著になる他の研究領域、例えばレーザー・プラズマ相互作用や磁気圏プラズマの研究、との相補的な研究展開を行い、非平衡・非線形プラズマ物理の学理構築に寄与する。

  • 研究背景

     プラズマ核融合エネルギー実用化のため、磁場閉じ込めプラズマにおける熱や粒子の閉じ込め特性の研究が進められている。代表的な乱流輸送モデルに準線形・拡散モデルがあり、スケーリング則による大型装置の性能予測などに貢献してきた。ところが、過渡・突発輸送、非局所・非拡散輸送、亜臨界不安定性、分布硬直化など準線形・拡散モデルで表すことのできない輸送現象が見つかり、新たな理論的枠組みの構築が望まれた。そのうちの1つとして、プラズマ揺動の位相空間ダイナミクス研究が行われている。 核融合炉心プラズマなどの低衝突領域で、揺動による粒子捕捉のバウンス時間が揺動の自己相関時間に比べ短い場合に、波動-粒子相互作用が顕著になる。すなわち、捕捉された粒子の作る場が元の波動に影響を与えるようになる。このような揺動と粒子運動のカップリングが起こると、実空間と速度空間で張られる位相空間に非線形構造が形成される。特に位相空間に形成された複雑なパターンは、位相空間乱流と呼ばれる。位相空間構造は、速度分布関数から直接定義されるエントロピーが、質量・運動量・エネルギー保存の拘束化で最大となる状態として導くことができる。

     位相空間揺動は一度形成されると、通常の流体乱流のようにプラズマのマクロスコピックな性質に様々な影響を与える。例えば、イオンの位相空間乱流は、電子とカップルして動的摩擦を生み出し、非拡散的な輸送を作る。位相空間揺動は非線形プロセスを内在しているため、成長率は構造の振幅にも依存し、爆発的な成長過程を示すことが予測されている。また、線形的には安定なパラメータ領域でも、初期揺動が十分大きければ亜臨界不安定性により、実空間勾配の持つ自由エネルギーを解放することができる。外部加熱が位相空間分布に歪みを作り、位相空間構造となって輸送に寄与するプロセスも考えられている。トーラスプラズマでは、トーラス性によって揺動の結合が起こり、半径方向に長い相関長と固有周波数を持つモードが発生する。こうした場合に、分布勾配値は流体的な不安定性の安定限界値となる。このような臨界状態においては、波動-粒子相互作用など運動論的な特徴を持つ輸送プロセスが重要になることが予測されている。核融合プラズマの出力を左右する定常分布の振る舞いを理解するためには、揺動の運動論的な定式化が本質的に必要である。これらの重要性にも関わらず、これまで位相空間揺動の実験研究は、計測の困難さからあまり実施されてこなかった。

     

    研究背景
  • 研究の進め方

     本ユニットでは、実験による位相空間揺動構造の観測と、それらが輸送や加熱、流れ場・電流駆動などマクロスコピックなプラズマ運動へ及ぼす影響の定式化を目標とする。また、これらのケーススタディを通し、波動-粒子非線形相互作用の学理を定式化し、一般性を議論することで広い学術界に訴求する。位相空間実験計測では、分解能(実空間、速度空間、時間)と信号強度がトレードオフの関係にあり、運動論シミュレーションで得られているような位相空間の高分解データを直接計測することは難しい。このため、理論・シミュレーションのサポートを受けつつ、観測ターゲットの選定や計測器設定の最適化、新たな解析方法の導入などを行い、揺動位相空間ダイナミクスの実験的研究を端緒につける。

     磁場閉じ込め核融合プラズマにおける実験研究では、捕捉イオンなどの比較的遅い粒子と結合する揺動を対象に、揺動と粒子の非線形相互作用の観測を目指す。シミュレーション空間に存在する位相空間構造が実空間の計測データにどのように現れるか(実空間フットプリント)を予測し、位相空間構造の存在を証明するための糸口とする。加熱やペレット入射などの摂動励起装置を利用し、動的応答に見られる位相空間構造の特徴を検出する。速度空間計測装置の開発・高性能化も、本ユニットの主要な活動内容の1つとなる。また、データ科学を活用した解析方法の開発も行う。準線形・拡散理論でも良い近似となる領域と、位相空間ダイナミクスの特徴が顕著になる領域を実験的に分離するため、従来的な流体的な乱流輸送の計測にも力を入れる。このために、揺動の同時多点計測や、異種計測器連携を実施する。静電・電磁プローブを用いた高精度な局所計測を実施することが可能な、基礎装置を用いた位相空間構造の実験研究も進める。静電プローブは、その形状を工夫することにより、電子またはイオンを選択的に捕捉し、バイアス電圧を掃引することでそれぞれの速度分布関数を取得することが原理上可能である。近年盛んなマイクロプローブを利用した微小スケール構造の検出を行う。

  • 学際的な特徴

     低衝突プラズマは宇宙空間においても普遍的に見られており、実験室プラズマを用いた物理素過程の研究が進められている。実験室プラズマを用いることで、位相空間構造の非線形成長機構や、自己組織化、熱・粒子輸送などを詳細に調べることができる。波動-粒子相互作用による位相空間における粒子捕捉は、レーザー航跡場による電子加速の原理である。これらの現象は、波動の非線形化によるコヒーレント位相空間構造の生成と考えることができる。一方で、磁場閉じ込めプラズマでは非線形性により、乱流化が進む(グラニュレーション)と予測されている。非線形性の選択則決定機構の定式化は、本ユニット課題を一般展開する方針の一つとなる。速度分布関数を用いたエントロピーの定義と、その最大化の結果として現れる位相空間構造を直接観測できることは、エントロピー原理の検証の格好の機会となる。

研究成果

位相空間乱流

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