超伝導・低温工学
Applied Superconductivity and Cryogenics
  • 研究概要

     本ユニットは、これまで核融合科学研究所が取り組んできた超伝導・低温工学関連の研究成果を踏まえ、長期的目標の核融合だけでなく、中短期的目標としてカーボンニュートラル社会構築を促進するような魅力的で汎用性のある革新的な超伝導マグネット技術、低温技術を高い信頼性のもとで確立するための学術研究を展開する。ここで、超伝導材料としては金属系から酸化物やMgB2まで、幅広く研究対象とする。冷却方法についても、液体水素冷却を含む様々な冷却方式を対象とする。これまでの豊富な研究実績を礎として、例えば以下の研究項目に挙げる新たな取り組みにも挑戦する方針である。

    <ユニットとして取り組む研究項目>

    ・大電流高温超伝導導体・コイル研究
    ・液体水素利用による超伝導応用研究
    ・液体水素の低温物性評価
    ・先進超伝導線材研究(高強度化・超極細線材加工)
    ・超伝導線材、導体の高信頼性検査手法研究
    ・AIによる液化機予防保全技術開発研究

     高磁場大型超伝導マグネットは、超伝導導体内部の局在化する電流分布のために、常伝導マグネットのように材料などの特性を均等化した平均値で設計することができず、複数の超伝導線材を集合化した導体及びコイルの高い信頼性を得るための接続技術や劣化検出技術などを含めて要素基本技術はまだ発展途上にある。また、ITER以降の高磁場化要求を満たすためには、高性能Nb3SnをはじめとするA15相金属間化合物低温超伝導線材や銅酸化物系高温超伝導線材が今後の大型マグネット製造で主流となると考えられる。これらの材料は本質的に脆性材料であり、特にA15線材では巨大化するマグネット製造においてReact&Wind製法(超伝導相生成のための熱処理後にコイル巻線を行う製法)を指向し確立することが求められる。また、高温超伝導線材においても常伝導転移(クエンチ)対策のための電磁気学的理解や材料学等の基礎研究を積み上げることで、コイルの高い安全性及び信頼性を確立することを目指すものである。これらの成果は、核融合や高エネルギー物理などの大型サイエンスに供する大型超伝導システムを革新的に進歩させるだけでなく、一般汎用機器への超伝導応用を促進するものである。また、超伝導システムはカーボンニュートラルに大きく貢献する技術であると言える。

     一方で、昨今、供給が不安定となる傾向にあるヘリウムに代わる冷却媒体(寒剤)として、「水素」が検討され始めており、「水素」にて冷却する超伝導導体・コイルの可能性について先駆的な研究を展開する。特に、液体水素の基礎物性の研究をもとに液体水素冷却による超伝導導体及びコイルの冷却安定性を議論するとともに、液体水素の持続的な製造供給システム等まで含めて系統的に研究を積み上げることで、将来的に液体水素冷却による革新的な超伝導システム構築する。これは、革新的な核融合炉の提案に繋がるだけでなく、世界的な潮流であるSDGsやカーボンニュートラル社会の構築に直接的に関与するものである。

     これまでLHD計画や大学との共同研究にて培われた核融合開発に特化した超伝導・低温工学の遺伝子をさらに活性化することで、持続可能社会実現の加速的な駆動力となる「水素」までも包含し、高い安全性及び信頼性を指向する新たな超伝導工学・低温工学へと展開させることが本ユニットの研究目的である。そして、超伝導・低温工学の進展を次世代の核融合工学にフィードバックすることで、核融合研究における新しい局面を作り出すだけでなく、他のビッグサイエンスの更なる進展にも貢献することを目指す。

     本ユニットの10年間におけるマイルストーンは、SDGsに貢献する液体水素を利用し、新しい概念の超伝導線材や大電流高温超伝導導体を用いた超伝導コイルシステムの社会実装の加速を行うことである。このユニットは、超伝導・低温工学に関するスペシャリストにて構成される集団であり、材料・低温技術そしてシステム統合まで系統的に分担した研究の実施が可能である。

     本ユニットの取り組みには、超伝導マグネット研究棟の現有設備を維持あるいはアップグレ-ドするための研究資金が必要である。ユニットを構成する人材、および共同研究体制等の人的資源により、「超伝導システムの出口戦略」や「液体水素」などをキーワ-ドとした国家プロジェクト(JSTやNEDO等の大型プロジェクト公募)へ幅広く研究提案が可能であり、積極的に応募、そして獲得していくとともに、民間企業との共同研究についても積極的に推進していく。

     NIFSは、保有する低温設備を活用し、大型超伝導マグネット研究やそれを支える低温研究、材料研究において世界的な展開を果たしてきた。さらに、10 kAを超える大電流高温超伝導導体の試作と温度可変での特性評価も実施し、核融合炉用の高温超伝導導体・コイル評価機関として優位性がある。超伝導マグネット研究棟の持つ温度可変(4 -50 K)低温システムを中心とした低温設備は、温度・流量共に独立して制御可能な設備である。また、大口径強磁場導体試験装置、75 kA直流電源などの大型超伝導試験設備は世界有数のプラットフォームである。これらを活用していくことで小型サンプルから大型導体・コイルまで対応できる様に設計されており、液体ヘリウムだけでなく、今後改造を施すことで液体水素も作り得る能力を有している。液体ヘリウム環境、液体水素環境両者を同時に持つ多彩な低温環境を実現できる独自性の高い研究拠点となり得ることから、他の大学と差別化できる優位性があり、それを活かした研究活動を本ユニットでは推進する。これらをもとに、超伝導工学・低温工学のさらなる深化と学際化を図る。

     研究体制としては、本ユニットで取り組む研究課題を、超伝導導体・コイルに関する研究低温工学に関する研究先進超伝導線材に関する研究に大別し、この3つのカテゴリーごとに研究者をグループ化し、それぞれの研究課題についてマイルストーンを明確にして研究活動を推進する。

研究成果

超伝導・低温工学

連絡先

Email:asc