論文紹介

“Enhanced Classical Radiation Damping of Electronic Cyclotron Motion in the Vicinity of the Van Hove Singularity in a Waveguide”
(導波管内におけるVan Hove特異点近傍からの電子サイクロトロン運動に伴う古典的放射減衰の増幅),
Yuki Goto, Savannah Garmon, Tomio Petrosky
,
Progress of Theoretical and Experimental Physics 2024, 033A02 (2024)

DOI:10.1093/ptep/ptae021

Fermiの黄金律などの摂動論に頼らず、古典的Friedrichsモデルを用いた導波管内での減衰を含む電子サイクロトロン運動とその放射過程を解析した。導波管内での波の分散関係は、各電磁場モードの下限(またはカットオフ周波数)でVan Hove特異点となっている。我々は、Van Hove特異点の近傍では、共鳴極に関する減衰過程だけでなく(増幅因子∼104)、分岐点効果も同様に増幅されることを明らかにした。そして減衰が起こる時間スケールも劇的に短縮されることも明らかにした。この結果は、非マルコフ過程である分岐点効果がVan Hove特異点の近傍では実験的に観測可能であることも示唆している。我々の定式化では、Abraham–Lorentz方程式に基づく伝統的な古典的放射減衰の取り扱いで生じる暴走解を持たない、物理的に許容できる解を与えている。


“Young’s double-slit experiment with undulator vortex radiation in the photon-counting regime”
(光子計数領域におけるアンジュレータ渦放射を用いたヤングの二重スリット実験),

Shin-ichi Wada, Hiroyuki Ohta, Atsushi Mano, Yoshifumi Takashima, Masaki Fujimoto, Masahiro Katoh
,
Scientific Reports, 13, 22962 (2023)

高エネルギー荷電粒子の放射する光渦に対するヤングの干渉実験の結果。(a)は短時間で撮影した画像であり、これを5000枚重ね(b)の結果を得た。その中央部の暗部を見やすくした(c)で、通常の光では観測されない光渦特有の干渉縞の歪みが確認された。


“Molecular dynamics simulation on fabrication of chiral nanoneedle by optical vortex”
(光渦照射による螺旋ナノ針構造形成の分子動力学シミュレーション),

Hiroaki Nakamura, Shu Habu
,
Japanese Journal of Applied Physics 62, SA1013 (2023)

軌道角運動量を持つ光渦レーザーをタンタルに照射すると、電磁場からタンタル原子に軌道角運動量が転写され、螺旋状のナノ針構造が形成されることが実験報告されていた。我々は、電磁場と原子の相互作用を模擬化した“力”をタンタル原子に作用させる分子動力学シミュレーションを用いて、図のようにタンタルの螺旋ナノ針構造形成を再現した。この螺旋構造は、光渦の持つ軌道角運動量に応じてその向きが依存することも確認できた。


“Correlation of the orthogonal basis of the core plasma distribution to the divertor footprint distribution in LHD”
(LHDにおける主プラズマ分布の直交基底とダイバータ粒子束分布の相関),

H. Tanaka, S. Masuzaki, G. Kawamura, Y. Hayashi, M. Kobayashi, Y. Suzuki, K. Mukai, S. Kajita, N. Ohno
,
Plasma and Fusion Research 18, 2402021 (2023)

LHDにおけるダイバータ板上の粒子束分布と、主プラズマ領域の電子圧力分布の両方に、固有直交分解法(POD)と呼ばれる多変量解析手法を適用した。相互相関解析の結果、電子圧力分布の第3,4,5PODモードは、トーラス内側ダイバータ板上の粒子束ピーク位置と高い相関があることがわかった。第3モードと第4モードはともに、電子圧力のピーク位置が磁軸半径からずれることに対応しているようである。一方、第5モードは電子圧力分布の周辺勾配に強い影響を与える。ダイバータ粒子束分布との関係は、有限β効果とPfirsch-Schlüter電流効果によって説明できる。


“Enhancement of Doppler spectroscopy to transverse direction by using optical vortex”
(光渦の利用によるドップラー分光法の横方向への拡張),

Hiroki Minagawa, Shinji Yoshimura, Kenichiro Terasaka, Mitsutoshi Aramaki

Scientific Reports 13, 15400 (2023)

波長可変ダイオードレーザー吸収分光法(TDLAS)は、プラズマ中の粒子の流れ速度を計測するための非常に有用な方法である。しかしながら、平面波ビームを用いる従来のTDLASは、レーザーの伝搬方法にしか感度がない。この制限は、プラズマ-物質相互作用において物質に垂直に入射する粒子輸送の観測を特に困難にする。我々は、本論文で、プローブビームを光渦ビームに置き換えることで、ビーム方向に垂直な流れの計測が可能であることを初めて示す。光渦はらせん状の波面を持つため、その場の中を運動する粒子は並進ドップラーシフトに加えて方位角ドップラーシフトを経験する。光渦を横切るガスの流れが一様であると仮定すると、ビーム断面で観測される吸収スペクトルの方位角ドップラーシフトは、方位角方向に正弦波状に変化する。横方向の流速は、この正弦波状の変化の振幅から導かれる。横流速が70m/s以上の場合、測定誤差は15%以下、平均絶対百分率誤差は8%以下であることがわかった。


“Generation and measurement of low-temperature plasma for cancer therapy: a historical review”
(がん治療のための低温プラズマの生成と測定:歴史的総説),

Kenji Ishikawa, Keigo Takeda, Shinji Yoshimura, Takashi Kondo, Hiromasa Tanaka, Shinya Toyokuni, Kae Nakamura, Hiroaki Kajiyama, Masaaki Mizuno, Masaru Hori

Free Radical Research 57, 239-270 (2023)

この総説では、低温プラズマの生物学的応用の発展の歴史的背景について解説している。プラズマの発生方法と装置、プラズマ源、および気相と液相の両方における電子のダイナミクスや化学種の発生などのプラズマ特性の測定について評価した。現在、皮膚や歯などの生体表面にプラズマ放電を接触させる直接照射法は、プラズマ生物学的相互作用に関連している。プラズマ処理した液体を用いた間接照射法は、プラズマ-液体相互作用に基づいている。これら2つの方法は、前臨床試験やがん治療において、その使用が急速に増加している。著者らは、プラズマと生体との相互作用を理解することによって、がん治療への応用がさらに発展する見通しについて述べている。


“Investigation of the magnetic field configuration for magnetic surface measurements in the CFQS quasi-axisymmetric stellarator”
(準軸対称ステラレータ装置CFQSにおける磁気面計測に最適な磁場配位の検討),

M. Shoji, A. Shimizu, S. Kinoshita, S. Okamura, Y. Xu, H. Liu,

Plasma and Fusion Research 18, 2405026 (2023)

CFQSの典型的な磁場配位における磁気面の計算結果を図(a)に示す。モジュラーコイルの1つを主半径方向に10 mmずらした場合の結果を図(b)に示す。両者はほとんど同じであることから、典型的な磁場配位で磁気面を計測したとしても、コイルの設置誤差を検出することはできない。一方、磁気面計測用の磁場配位における結果を図(c)に示す。プラズマ閉じ込め領域の中央部に磁気島が形成される。この磁場配位においてモジュラーコイルの1つを10 mmずらした場合の結果を図(d)に示す。この場合、磁気島が上下非対称になる。このことから、この磁場配位で磁気面計測を行行えば、コイルの設置誤差を検出できる可能性がある。


“Development of an experimental system for cell viability assays of yeasts using gas-temperature controllable plasma jets”
(ガス温度制御可能なプラズマジェットを用いた酵母の細胞生存率アッセイのための実験系の開発)
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Shinji Yoshimura, Yoko Otsubo, Akira Yamashita, Katsuki Johzuka, Takayoshi Tsutsumi, Kenji Ishikawa, Masaru Hori,
Japanese Journal of Applied Physics, 62, SL1011 (2023)

様々なプラズマ照射時間に対する野生型株の細胞生存率。近年、低温大気圧プラズマの生成法が確立したことで、生物へプラズマを直接照射することが可能となった。しかしながら、単に物理的に耐えられる温度であるだけでは不十分で、その生物の成長に適した温度で照射することが重要であると生物学研究者から指摘されていた。そこで、我々は、ペルチェ素子を用いて供給ガスを冷却することで、常温で照射可能なプラズマジェット源を開発した。このプラズマジェットを用いることで、生物学基礎実験に不可欠な細胞生存率アッセイの実験系を構築することができた。図は、様々な照射時間に対する分裂酵母細胞の生存率を示している。これにより、プラズマ照射に対して耐性・脆弱性をもつ遺伝子変異体の探索が可能となる*。また、この論文では、発光分光、真空紫外吸収分光、サーモグラフィー等の様々な計測を用いて、この常温プラズマの特性を評価している。
*基礎生物学研究所において、この実験系を用いて、プラズマ耐性に関与する遺伝子が最近特定されており、現在論文を投稿中である。