プラズマ・複相間輸送
Transports in Plasma Multi-phase Matter System
  • 研究の概要

     本ユニットでは、磁場閉じ込め核融合炉の開いた磁⼒線領域から壁へ、そして壁を冷却する冷媒、あるいは排気装置を経て燃料循環系に至る系を研究対象とする。そこはプラズマと固体・液体・気体が接する系であり、この系における熱・粒⼦・運動量の輸送現象を理解し、予測して、制御することが本研究の研究目的である。さらに、このような研究から得られる知⾒や技術を、核融合分野以外の様々な分野に展開し、それらの分野の進展に寄与することを目指す。

    図. 左から、LHDダイバータプラズマの可視光像、JETトカマク装置タングステンダイバータ板のプラズマ対向面に形成された微細凹凸構造上のベリリウム分布、分子動力学法を用いたアモルファス炭素壁での水素リサイクリングシミュレーションの例、両親媒性分子系の自己組織化構造形成の散逸粒子動力学法によるシミュレーションの例

     磁場閉じ込め核融合炉では、主プラズマから流出する大きなエネルギーは、開いた磁力線領域を経て主としてダイバータに輸送されるため、不純物ガスによる放射冷却と非接触プラズマ形成によりダイバータ板への熱負荷を低減してその健全性を保たなければならない。また、燃料として炉内に導入された重水素とトリチウムの大部分は、周辺プラズマ中で電離・遮蔽されて核融合反応には寄与しないため、ヘリウム灰や放射損失増大のため導入した不純物ガスとともに未反応の燃料粒子を排気して燃料供給系に戻し、燃料として再度プラズマに導入する。このため定常運転中の核融合炉システムでは、熱と粒子の輸送を高度に制御する必要がある。また、ダイバータ板などプラズマ対向壁への燃料粒子の蓄積や、壁中の輸送を考慮した粒子バランスを把握することも必要である。

     核融合炉内を循環する物質は、開いた磁力線領域から壁、冷却材、排気系、燃料循環系まで、そのエネルギー状態に応じて荷電粒子(プラズマ)、中性粒子(ガス)、液体、固体に相転移を起こすため、このような複数の相状態にまたがるエネルギーや粒子の輸送について、相間の相互作用を含めた包括的な理解を目指す。

     特に熱エネルギーの輸送については、原子・分子過程を介した荷電粒子、光、電磁波の運動エネルギー間の変換における分子の振動・回転状態の影響や、閉じ込め磁場形状との関係における熱不安定性の役割、原子・分子過程の非線形性による動的応答に着目する。さらに、これらの物理を光と物質の相互作用として捉え、光の電磁場や運動量と物質中の原子核や結合電子との相互作用を掘り下げることで、宇宙での有機分子の生成(アストロバイオロジー)やプラズマバイオロジーなどの分野への展開を目指す。

     粒子循環については、プラズマ中の粒子輸送および壁(固体・液体)中の粒子輸送を「非平衡交差輸送」として捉え、研究を進める。ここでいう非平衡交差輸送とは、一般的な意味で複数の勾配が駆動して結合する非平衡交差効果と同義だが、方向性を持った循環の流れを非平衡流れ(輸送)として捉え、それを交差輸送で駆動するという意味も含まれる。プラズマ中の粒子輸送、壁中の例えば、プラズマと中性粒子の場合、中性粒子によるプラズマの制御(ミクロ)と中性ガスによる粒子循環の制御(マクロ)の両方を、それぞれ俯瞰的に考えて研究を進めていく。

     核融合炉の装置壁については、固体壁および液体金属壁を研究対象とする。固体壁ではプラズマ照射や中性子照射による壁の損傷形成や、その水素同位体蓄積・輸送への影響などについて、微細構造観察などからそのメカニズムを明らかにする。またタングステンと銅合金など、壁形成のために接合する異種材料間の物質移動現象を原子レベルの精度で解析し、空隙が極めて少ない(連続性の高い)強固な接合を可能とする方法をミクロな視点から探索する。液体金属を用いたプラズマ対向壁の研究では、プラズマと接する界面における不安定性や、液体金属中への粒子蓄積などの理解を進め、核融合炉においてどのように壁として用いるか、工学的な検討を行う。

     研究は、トーラス型磁場閉じ込め装置・直線型プラズマ装置などを用いた実験や、流体モデル、粒子・運動論モデル、分子動力学法などを用いたシミュレーションにより進める。

  • 論文紹介

    以下では、プラズマ・複相間輸送ユニットの成果として、最近出版した論文を紹介します。

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研究組織

・ 研究戦略会議メンバー(所外)

研究成果

プラズマ・複相間輸送

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