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位相空間乱流ユニット「ティータイムセミナー」のご案内
今回は、名古屋大学の山本和弘先生をお迎えしてティータイムセミナーを開催します。
食後のティータイムとして是非参加下さい。
【 題 目 】 地球磁気圏プラズマにおけるプロトン位相空間密度の空間勾配によって励起する圧縮性超低周波波動
【 話し手 】 山本和弘 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)
【 日 時 】 2024年9月4日(水)13:00 ~ 13:30
【 場 所 】 ハイブリッド(対面:NIFS研究棟I-401セミナー室、オンライン:MS teams)
【 内 容 】 地球周辺の宇宙空間(磁気圏)では、トカマクに閉じ込められた高温プラズマ中で様々な微視的不安定性が生じることと同様に、地球の固有磁場中に閉じ込められたリングカレント粒子のプラズマ不安定性によって励起する波動が観測される。近年では、NASAのVan Allen Probes衛星やJAXAの「あらせ」衛星によるリングカレント粒子のその場観測が充実してきたことで、粒子の速度分布の観測データをふまえた運動論効果を含むプラズマ不安定性の解明が進められている。
本研究では、リングカレント粒子のドリフト・バウンス運動の時間スケールに対応する電磁波動として、超低周波(Ultra-Low Frequency)波動と呼ばれる周期10-100秒程度の電磁波動に着目した。過去の研究では、プラズマβとイオンの温度異方性が高くなることで生じるdrift mirror不安定性によって、背景磁場方向の磁場振動である圧縮性ULF波動が励起されると考えられてきた。一方で、drift mirror不安定性の条件を満たさない場合にも、波動粒子相互作用によって圧縮性ULF波動が励起していると考えられる観測事例が報告されており(e.g., Takahashi et al., 2022)、それらの圧縮性ULF波動の励起メカニズムを明らかにすることを本研究の目的とした。
2018年11月19日に「あらせ」衛星で観測された圧縮性ULF波動について、イオン計測器のデータを用いてMager et al., (2013)やTakahashi et al. (2022)の理論に基づき波動の周期や振幅の評価を行ったところ、drift-compressional modeと呼ばれるジャイロ運動論から導かれる固有モードを観測している可能性が極めて高いことが分かった。このモードはイオン温度の空間勾配によって励起すると考えられているが(e.g., Crabtree et al., 2003)、本研究では粒子の軌道運動と波の共鳴効果であるドリフト共鳴によっても波動が成長しうることを世界で初めて明らかにした。ドリフト共鳴とは、波動の位相速度と荷電粒子のドリフト速度が一致して起こる共鳴のことであり、共鳴条件としてはω-mωd=0がそれにあたる(ωは波動の角振動数、mは波動の東西波数、ωdは粒子のドリフト角振動数を表す)。今回の事例では、波動による粒子フラックスの変調が強かった20-25 keVのプロトンが共鳴していると考えられ、これらのプロトンの有限ラーモア半径効果を用いて観測された波動の東西波数を推定したところ、この共鳴条件をよく満たしていた。また、波動の成長条件としては、共鳴粒子の拡散曲線に沿った位相空間密度の速度勾配が正になること (df/dW > 0、fは位相空間密度でWは運動エネルギー)が求められる。この事例では、プロトン位相空間密度の内向き空間勾配によって成長条件が満たされることが分かった。この空間勾配は、地球磁気圏に注入されたイオンのドリフト軌道が太陽風変動とともに変化することで生じたと考えられる。今回報告したような磁気圏のULF波動は、実験室プラズマにおけるイオン温度勾配不安定性やアルヴェン固有モードと類似する特徴を持っており、実験室プラズマの異常拡散と同様、地球磁気圏でのリングカレントイオンの動径拡散を引き起こす可能性がある。
【 世 話 人 】 河内 裕一
【 問い合わせ 】 西浦 正樹(nishiura.masaki@nifs.ac.jp)