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同位体計測などの核融合応用について議論、「中赤外レーザー技術専門委員会」の活動報告

 昨年末に、内閣府においてムーンショット目標10「2050年までに、フュージョンエネルギーの多面的な活用により、地球環境と調和し、資源制約から解き放たれた活力ある社会を実現」が策定されました。核融合発電にむけた原型炉開発と並行して、核融合をエネルギー源とした社会実装の検討や、そのための革新的な要素技術の開発が急務となっています。

 核融合エネルギーの実現には、その燃料となる水素同位体(重水素や三重水素)の量や挙動を常に監視し、制御することが求められます。水素同位体の濃度をリアルタイムでモニタリングする技術は未だ確立されていませんが、中赤外という特殊な波長のレーザーを使うことで、将来それが可能になると考えられています。本研究所・可知化センシングユニットの安原亮教授ならびに上原日和准教授は、中赤外レーザー光源と分光計測システムを独自開発し、同位体のリアルタイム計測の実証を目指して精力的に研究しています。

 このような背景の中、令和5年度より、国内の中赤外に関する主要研究者らが集結した「中赤外レーザー技術専門委員会」が新たに発足され、同位体計測などの核融合応用を視野に入れた様々な意見交換をおこなっています。この委員会は、レーザー学会の技術専門委員会のひとつに位置づけられ、主査を京都大学化学研究所の時田茂樹教授、副査を本研究所の安原亮教授、幹事を京大化学研究所の岡崎大樹助教、同じく幹事を本研究所の上原日和准教授が担当しています。現在、民間企業5名を含む、計26名が委員として参画しており、中赤外レーザー光源技術、光計測技術を中心とした活発な情報交換や共同研究基盤の構築がなされています。以下に、中赤外レーザー技術専門委員会のこれまでの活動をいくつかピックアップして紹介します。


 昨年9月に、中赤外レーザー技術専門委員会が主催するワークショップを京都大学宇治キャンパス+オンラインにて開催しました。豊田工業大学の藤貴夫教授による講演「サブサイクル中赤外光パルスを用いたハイパースペクトルイメージング」では、中赤外の超短パルスレーザーを使った革新的な生体イメージング手法が紹介されました。続いて、京都大学の時田茂樹教授による講演「高強度超短パルス中赤外固体レーザーシステムの開発」では、同位体の高精度な計測や高効率なプラズマ発生を可能にする革新的な中赤外レーザー光源の開発状況について報告がありました。また、現地参加者を対象に京都大学化学研究所 附属先端ビームナノ科学センターの高強度レーザー施設の見学会がおこなわれました。

中赤外ワークショップの現地参加者で記念撮影 @京都大学宇治キャンパス
京都大学化学研究所の高強度レーザー施設の見学の様子

 今年2月にも同様のワークショップが名古屋市のウインクあいち+オンラインで開催されました。産業技術総合研究所の湯本正樹氏の招待講演 「自己差周波発生による中赤外波長可変コヒーレント光源」では、全く新しい形態の中赤外レーザー発振器の提案とそれを使ったガス分析の実証例が紹介されました。続いて、本研究所の安原亮教授から「核融合研究にむけた高出力中赤外レーザー開発」について講演があり、同位体計測やプラズマ計測などの核融合応用における中赤外レーザーの優位性、今後の研究構想について出席者と討論しました。

 翌日の施設見学会では、本研究所の中赤外レーザーの光源開発環境をご覧いただきました。安原教授は、量子カスケードレーザーと固体レーザーを融合した革新的な中赤外レーザーを世界に先駆けて実証しており、これによって高い出力と優れた波長特性を中赤外領域において初めて両立しました(こちらの記事を参照)。また、このレーザーを光源利用したキャビティーリングダウン分光法の開発環境も見学していただき、中赤外分光での水素同位体比リアルタイム計測の実証に向けたロードマップを議論しました。上述の分光計測は、可知化センシングユニットの安原亮教授が代表を務めた文科省・英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業/課題解決型廃炉研究プログラム課題「中赤外レーザー分光によるトリチウム水連続モニタリング手法の開発」において開発を開始したものです(研究紹介動画)。昨年度で終了した同プログラムには、本ユニットの上原日和准教授、田中将裕准教授、同ユニット所外メンバーの赤田尚史教授(弘前大学)も参画しており、今後も共同研究による同位体計測技術の開発を継続してまいります。

 中赤外レーザー分光によるリアルタイム性・遠隔性の高い同位体計測技術の確立は、チャレンジングでありながら、核融合エネルギーの実現には必要不可欠です。今後は、上述の共同研究体制に加え、中赤外レーザー光源研究の第一人者である京都大学・時田茂樹教授らとタッグを組み、核融合科学の発展を加速する同位体計測研究を推進していきます。また、中赤外レーザー技術専門委員会で形成されたコミュニティーを最大限に活用した大型研究プロジェクトの立ち上げや、それに基づいた中赤外光技術の底上げ、潜在的応用の探索を図ってまいります。

<関連リンク>

レーザー学会・技術専門委員会 https://www.lsj.or.jp/about/technical-groups/#elementor-toc__heading-anchor-10

京都大学化学研究所・時田研究室 https://www.laser.kuicr.kyoto-u.ac.jp/

英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 https://clads.jaea.go.jp/jp/eichijigyo/about_eichi.html

内閣府 ムーンショット目標10 https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub10.html

お問い合わせ: 可知化センシングユニット長 uehara.hiyori@nifs.ac.jp