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プラズマを使ってさまざまな半導体材料に特殊な凹凸構造を作ることに成功(上原日和准教授らの成果)

 本研究所・可知化センシングユニットの上原日和准教授らのプラズマー材料相互作用に関する最新の研究成果が、米国化学会(ACS)が発行する学術雑誌「Langmuir」に掲載されました。ここでは、本成果の内容についてわかりやすく解説します。

 昨年度、可知化センシングユニットの上原日和准教授、シーチュエンCOE研究員(現在は東京大学・博士研究員)らは、東京大学の梶田信教授、名古屋大学の大野哲靖教授、北海学園大学の藤原英樹教授らと新たに研究チームを結成し、核融合研究で生まれ培われてきた、プラズマを材料に照射する技術をワイドギャップ半導体である窒化ガリウムの加工に応用し、ランダムレーザーとよばれる高機能な発光デバイスを開発しました(こちらのプレスリリース参照)。今回の研究では、プラズマを照射する対象を窒化ガリウムのほか、さまざまな化合物半導体に拡げて実験をおこない、多岐にわたる半導体材料の表面に特殊な凹凸構造を形成することに成功しました。

 核融合発電の実現には、高温のプラズマを装置の中で長時間維持することが必要であり、プラズマと装置内壁との相互作用を理解することが重要な研究課題の一つとなっています。東京大学ならびに名古屋大学の研究グループでは、プラズマを壁材料に照射する設備を多数、独自開発し、これを用いて長年研究を行ってきました。今回、上原准教授らは、図1に概要を示した名古屋大学・大野研究室のプラズマ照射設備を利用し、さまざまな半導体材料にアルゴンプラズマを照射しました。

図1 用いたプラズマ照射装置の概念図
図2 プラズマ照射装置の外観(名古屋大学電気工学専攻・大野研究室 提供)

 通常、平面基板にプラズマを照射すると、基板の全体が均一に浸食(エッチング)されますが、この装置では、試料近傍の中空にモリブデンのワイヤーを配置して、基板とワイヤーの両方にプラズマを照射することができるようになっています。図3に凹凸構造が形成されるメカニズムを図示しました。プラズマで飛ばされた(スパッタされた)少量のモリブデンが半導体基板上に部分的に堆積しますが、それと同時に基板がプラズマで浸食されます。このとき、堆積したモリブデンが浸食を防ぐ保護膜(マスク)として機能し、ナノメートルサイズの複雑な凹凸構造が形成されます。図1からもわかるように、この装置では、試料基板と不純物ワイヤーに所望の電圧を印加できるため、基板のエッチング速度とマスクの堆積速度をそれぞれ独立して制御可能です。この「堆積エッチング法」によって、一度のプラズマ照射のみの簡便かつ低コストな手法で、半導体の表面全体にナノメートルの凹凸構造を作製することに成功しました。

図3 堆積エッチング法による表面改質のメカニズム

 アルゴンプラズマを使った堆積エッチング法によってさまざまな半導体表面に形成された凹凸構造の電子顕微鏡写真を図4に示します。ゲルマニウム(Ge)のほか、ヒ化ガリウム(GaAs)、セレン化亜鉛(ZnSe)、窒化ガリウム(GaN)などの代表的な化合物半導体において、ナノメートルの特徴的な凹凸構造を形成することに成功しました。一方で、シリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)では構造体が現れませんでした。これは、アルゴンプラズマ照射によるSiやSiCのスパッタ率(エッチング速度)がモリブデンと比較して遅いことが主な原因であり、ナノ構造を形成可能なスパッタ率のしきい値を実測値から明らかにしました。また、アルゴンでなく、ヘリウムプラズマを使用した場合には、SiやSiCにおいてもナノメートルの凹凸構造を形成可能であることも本研究において見出しました。

 不純物の堆積速度が遅いとき(図4の上)と速いとき(図4の下)を比較すると、同じ材料に対しても、形成される構造体の形状やサイズ、密度が大きく異なっていることがわかります。今回の研究で、上原准教授らは、堆積速度・エッチング速度をさまざまに変化させて、形成される構造体の各種パラメーターとの相関性、さらには材料物性との相関性を詳細に明らかにしました。

図4 さまざまな半導体表面に形成されたナノ凹凸構造の電子顕微鏡写真、モリブデン不純物の堆積速度によって構造の形状やサイズ、密度が大きく異なる

 一連の研究を通して、上原准教授らは、図4で例示したコーン状やディスク状の構造のほか、針状、ピラー(円柱)状、粒子状、さざ波状など、多彩なナノ構造体をさまざまな半導体材料において再現性高く作製できることを新たに実証しました。堆積エッチング法による半導体微細加工は、一度のプラズマ照射プロセスで、大面積にわたる凹凸構造を簡便かつ安価に形成できる点において高い優位性を発揮します。特に、本手法を機能性に優れた半導体材料に適用したことが本研究の新規性であり、今後、以下に示す多様な応用展開がおおいに期待されます。

  ・表面積の増大による光検出器や発光素子、ガスセンサー、太陽電池などの高効率化

  ・親水、疎水性の制御

  ・反射防止膜(モスアイ構造)や光学散乱体などの光の回折現象を利用した機能性の付与

  ・プラズモン共鳴を利用した光デバイス(化学反応場など)

  ・ランダムレーザー応用

  ・量子ドットのような量子効果の発現によるエネルギーバンドの制御

  ・テラヘルツ波の発生源

  ・電界電子放出源

  ・材料開発、バイオ応用(選択成長、配向性、挙動制御による)

 今回紹介した成果は、東京大学新領域創成科学研究科の梶田信教授、名古屋大学未来研の大野哲靖教授、北海学園大学の藤原英樹教授らとの共同研究体制で創出されたものです。プラズマ-材料相互作用研究の派生技術を半導体微細加工に応用した本成果は、核融合科学とナノテクノロジーの分野融合を促進するとともに、核融合科学の学際展開を切り拓くものです。今後も可知化センシングユニットでは、核融合科学の学際化を図り、社会実装を見据えた核融合技術の応用探索を推進していきます。

【論文情報】

Langmuir (2024年6月9日掲載、巻号ページ未定).

https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.4c00686

題目: Lithography-free nanofabrication on various semiconductors by co-deposition etching technique (プラズマ照射による堆積エッチングを用いた新たな半導体ナノ加工法の提案)

著者:上原日和*(核融合研)、 シーチュエン(核融合研、東大)、梶田信(東大)、大野哲靖(名大)、田中宏彦(名大)、安原亮(核融合研)、藤原英樹(北海学園大)

お問い合わせ: 可知化センシングユニット長 uehara.hiyori@nifs.ac.jp