研究発表

  • 可知化センシング
  • 研究発表

磁場閉じ込めトーラスプラズマにおけるMHD不安定性の径方向構造のパリティ遷移(武村勇輝助教らの成果)

 本研究所・可知化センシングユニットの武村勇輝助教は、磁場閉じ込めトーラスプラズマにおけるMHD不安定性の径方向構造の新たなパリティ遷移を発見し、その特徴を調査しました。今回、当該成果をまとめた原著論文が、オープンアクセス学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。ここでは、その概要を紹介します。


 磁場閉じ込めトーラスプラズマ中で発生するMHD不安定性は、プラズマの閉じ込め性能を劣化させる重要な要因です。特に、不安定性がもたらす密度・温度揺動の空間構造(径方向分布)のパリティ変化は、プラズマを閉じ込める入れ子状の磁場構造のトポロジ―変化と密接に関連しています。

 MHD不安定性によって磁場トポロジーが変化しない場合、不安定性に伴う密度・温度揺動は、位相が一定で、径方向に一つのピークを持つ偶パリティ構造を示します。一方、磁場トポロジーが変化して磁気島のように局所的に孤立した磁場構造が形成されると、揺動は位相が反転した二つのピークを持つ奇パリティ構造を示します。

 磁気島の発生はプラズマ閉じ込め性能を大きく低下させるため、磁気島の発生・安定化メカニズムの解明は、将来の核融合炉開発における重要課題の一つです。しかし、その詳細な過程はこれまで十分に理解されていませんでした。

 偶パリティから奇パリティへの遷移現象は、先行研究で観測されていましたが、これに対して本研究では、大型ヘリカル装置(LHD)において、磁気島の消滅に関連した奇パリティから偶パリティへと遷移する新たな現象を発見しました。この発見は、磁気島の発生過程だけでなく、磁気島の消滅過程にも偶パリティの不安定性が関与している可能性を示しています。

 また、パリティ遷移の発現条件に、外部から加えた共鳴磁場摂動(RMP)やプラズマ内部抵抗性の変化が関連していることが明らかとなりました。以上の結果により、磁気島の発生・安定化のメカニズムに関する理解が大きく進展しました。

 この研究成果は、核融合プラズマに限らず、磁場リコネクションなどトポロジカルな磁場変化が支配する宇宙・天体プラズマの理解にも貢献するものと期待されます。


偶・奇パリティのMHD不安定性発生時の圧力分布

左図:偶パリティ不安定性
同心円状に描かれた線は圧力の等高線(等圧面)を表しており、中心に向かうほど圧力が高く(High P)、外側に向かうほど圧力が低く(Low P)なっています。MHD不安定性によって圧力分布が変形し、それが回転することで、計測される圧力の揺らぎ(δP)は偶パリティ(揺らぎ位置で左右対称)の分布となります。

右図:奇パリティ不安定性
一方、MHD不安定性によって「磁気島」と呼ばれる構造が形成されると、その内部では断熱性の劣化により圧力が平坦化されます。このような構造が回転することで、圧力の揺らぎは奇パリティ(左右非対称)の分布となります。

本研究では、高時間・高空間分解能の計測技術を用いることで、不安定性が「奇パリティ(磁気島ありの構造)」から「偶パリティ(磁気島無しの構造)」へと遷移する現象を世界で初めて観測しました。この発見は、核融合分野の課題である磁気島の消失メカニズムの理解に重要な手がかりを与えるものであり、核融合プラズマの制御・安定化に向けた重要な成果です。


【論文情報】

Scientific Reports Volume 15, Article number: 14890(2025年4月29日掲載)

https://doi.org/10.1038/s41598-025-00181-5

題目: Parity transition of radial structure of MHD instability in magnetically confined torus plasmas

著者:Yuki Takemura, Kiyomasa Watanabe, Shu Ito, Satoru Sakakibara

お問い合わせ: 可知化センシングユニット 武村勇輝 takemura.yuki(at)nifs.ac.jp