可知化センシング
S&I: Sensing and Intellectualizing Technology
  • 研究目的

     可知化センシング(S&I:Sensing and Intellectualizing Technology)ユニットでは、革新的な計測・解析・表現手法とそれらを統合した新たな自然理解システムを実現する。これまでにない⾼空間分解能・⾼時間分解能を持つ計測器によって測定可能領域を拡⼤し、取得されたデータは、従来の物理的視点と相補的な統計数理・データサイエンスの考え方を採り入れた解析手法を用いて情報量を最⼤限に抽出する。さらに多種多様の現象やデータを視覚・聴覚・触覚などの情報へ変換して、対話的な方法でデータ内部に潜む複雑な構造や相関関係を解明する。これらの一連の研究手法を⾼度化することで、核融合科学の未解明問題に挑む。

  • 研究課題の定式化

     可知化とは、データ内部に潜む複雑な構造や相関関係を解明して、学術的な「知」識へと発展させることを「可」能にすることである。計測・解析・表現手法のハードウェア、ソフトウェア、統合するシステムの基幹となる工学・物理学・数学の知見に基づき、現象観察から理解までの⾼度化を行う。以下に代表的なアプローチを各手法について列挙する。

    A. 先進プラズマ計測・解析で挑む揺動・ダイナミクス研究

    »光位相コントラスト計測による核融合プラズマの乱流駆動輸送研究
     揺動計測性能の向上を図るとともに、得られた観測結果に対して、データサイエンス手法を駆使した解析手法の⾼度化を行う。シミュレーションとの比較にも⾼度なデータサイエンスを適用し、今まで明らかにならなかった乱流揺動の輸送特性の解明や揺動データに潜む法則性を発見する。
    »レーザートムソン散乱計測による高時間分解能電子温度・密度分布計測
     トムソン散乱計測の計測時間分解能の向上を図り、突発的、過渡的なプラズマ現象を理解する。これまで観測できなかった電子温度・密度分布の時空間的なダイナミクスを直接観測し、理論・シミュレーションとの比較を行う。
    »電子工学、光学、量子エレクトロニクス等の理解を基に光源の高性能化とその応用
     波長、出力強度、パルス幅、などについて現在利用できない光源のパラメータ領域を開拓する。光源材料、構造等を基本物性に立ち返って検討することで実現する。

    B. データサイエンスによる予測・判断志向研究を通じたサステナブルプラズマ制御

    ・核融合炉に求められる定常安定プラズマの実現を目指し、核融合プラズマの諸現象を題材として、プラズマ物理での理解追究と相補的に、「データへの当てはめ」という統計数理・データサイエンスの考え方を採り入れたモデリングを行う。核融合研究で生産される巨⼤データも利用しながら、核融合プラズマのリアルタイム予測・判断手法を確立する。得られた結果を基に核融合研究をハブとして、統計数理、情報学、データサイエンスの先端分野を開拓する。
    ・原型炉に向けてより重要となる安定同位体、放射性同位体の環境における物質循環・移動過程を明らかにするため、分析・測定手法の⾼性能化とデータ同化などを用いた評価システムの⾼度化を行う。新手法を地球科学・惑星科学へ展開し、⼤気圏-水圏-生物圏をつなぐ物質循環過程の理解を進める。

    C. データ理解への挑戦とパブリックコミュニケーションへの展開

     3次元+αの解析を可能とするVR表示やコンピュータ・ビジョンなどの表現法、データ科学を使って多次元時系列データの次元削減等による解析や離散データからの偏微分方程式の導出等を研究する。科学知を得るために数値モデル構築や、感覚から、知覚・認知を経て、科学知を得るまでの過程を構造化・定式化して、これまで経験的に行われてきた知的探求プロセスを体系化して、方法論として確立することを目指す。これらは、情報学分野といった強く関連する分野のみならず、知覚心理学などとの連携が考えられる。これらに加え、研究成果の社会還元及び核融合発電の実用化に向けた合意形成のために、オープンサイエンス、アウトリーチ活動やレギュラトリーサイエンスの推進を実施する。

  • 学際的展開

     リアルな世界で計測器をプローブとしてノイズの含まれたシグナルを抽出し、また、シミュレーションから多種多様なデータを取得し、それらからパターンを読み出し、人間が理解できる形に表現する。これは研究者の活動の一部である。したがって、計測・解析・表現手法から科学知を得るまでの過程の各要素で他に類を見ない性能や先進性を提示して、その過程を構造化・定式化することで知的探究プロセスを体系化して多くの学術分野とコミュニケーションを図る。
     データ駆動・統計数理モデリングについては、すでに統計数理研究所との連携事例が生まれている。細胞等の微小領域を観察する光学顕微鏡と、宇宙スケールまで観察可能な光学望遠鏡は、共にレンズによって構成される光学システム(像転送光学系)で原理は同一である。また、普遍的な物理化学特性を有する同位体は、⾼精度に測定することで物質循環・時間変動過程を解明するトレーサーとなる。このレンズ対や同位体トレーサーのような優れた道具は自然科学全般、多くの個人テーマに適応できる。究極的には核融合科学をプラットフォームとして、広く科学一般に適応可能な計測・解析・表現手法の創出を目指す。

  • 独自性、優位性など

     本ユニットの優位性は、すでに核融合コミュニティで実現されている⾼度なプラズマ計測技術、データ解析技術、分離濃縮技術、放射線・放射能測定技術、可視化技術と、それらを統合し、計測器からデータ解析を経て可視化する一連の過程をシステムとして捉え⾼度化するというフレームワークにある。

研究組織

・ 研究戦略会議メンバー(所外)

研究成果

可知化センシング

連絡先

Email:s&i